映画『ミスター・ガラス』/シャマラン作品の集大成。

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待ちに待った今年一番の期待作。
試写は無理だったけど、初日の初回上映で見ることが出来た!
見終わって感じたのはその熱量。
失礼な言い方かもしれないけど、今までのシャマラン作品にはない程の熱意が注ぎ込まれてる。いやもう真面目過ぎるほどに。
18年間考え続けてたという発言もあながち冗談ではないのかもしれない。それ程本作に込められた想いは強いように感じられた。

 

1.シャマラン作品の集大成
本人が事前に言っていたようにオチはもちろん存在する。だが衝撃作というよりは前二作の魅力を底上げしてくれる正統な最終章。綺麗にまとまりすぎてる感はあるが、三部作の集大成として答えを示す物語となっている。
監督本人が「この三部作の完成で自身のキャリアの一章が幕を閉じたように感じる」と述べているように、今までのシャマラン作品の集大成として位置づけてもいいのかもしれない。

 

2.オチと共に明らかになるメッセージ
もともとシャマランの作品はそのオチばかりが期待されるが、メッセージ性も明確な作風であった。
主人公は何かしらの問題やトラウマを抱えており、そこからの救いや再生に至る過程を一貫して描きつづけている。その治療薬となるのが「仮説」や「物語」であり、登場人物はそれを「信じる」ことで救われたり、立ち上がることに成功する。
この物語や仮説をアメコミ世界に求めたのが一作目の『アンブレイカブル』の登場人物たちだった。そして15年以上に渡るキャリアを経て、改めて同じ文脈で答えを模索しようと『スプリット』『ミスターガラス』という続編とユニバースが誕生する。
「常にオチを期待されることに疲れた」と語っていたシャマランだったが、結果としてオチはついたもののそれは強いメッセージ性に裏付けされたオチとなっている。
強く言いたいのは、この映画は衝撃的なオチやどんでん返しだけを期待するものではないと言うことだ。

 

3.三部作に至るまでの経緯
物語を信じることで前に進む人々を描き続けたシャマランだったが、実は彼自身もまた自分の物語を信じることで這い上がることに成功した人間だった。
若くして『シックスセンス』で不動の名声を得たかに思えた彼は、一時期ラジー賞の常連と揶揄されるほど底の底へ突き落とされた。
転落と共に、創りたい作品を自由に制作出来る環境に対して、様々な利害関係者から口を挟まれるようになる。ついには王道ファンタジーや壮大なSF作品に手を出しファンからも酷評され始める。
そこから這い上がる契機となったのが、自身の物語へと回帰することであり、自分が撮りたいものを信じて撮ることだった。
制作指揮を奪われないために家を担保にお金を借り、低予算で作り出した『ヴィジット』はスマッシュヒット。
その次に取りかかったのが『シックスセンス』の有名監督として初めて撮影し批判された『アンブレイカブル』の続編『スプリット』であり、『ミスターガラス』を組み込んだ三部作の完成である。
その過程はまさにキャリアの仕切り直し、或いは総仕上げであり、今作がいかに一人の映画監督として重要な作品となっているのかがわかる。

 

4.過去作の克服
こういった経緯もあってか、本作は過去の酷評された映画たちを反面教師にした部分が多い。
特にアクション部分。アクションを見る映画ではないにしても、とにかく地味である。『エアベンダー』のように元素を操ることもないし、『アフターアース』のような戦闘シーンもない。
しかしこれは紛れもないシャマランのアクション描写であった。カメラをぐわんぐわんと動かしたり、視点を変えたりすることでそれっぽさを演出する。カメラワークアクションとでも呼ぶべきこんなアクションもあって良いのではないか?アクション映画になってたらどうしようという、見始める前の最大の懸念は強みへと変わった。
展開としても、王道ものを描いて散々批判されたことへの腹いせのようなメタ展開となっている。
個人的に嬉しかったのは世間からは酷評されたが自分は好きな『レディ・イン・ザ・ウォーター』を今作では肯定的に取り込んでいるところ。
その他にも物語は細部に宿るかのように、細部への凝り方が半端ない。

 

5.マカヴォイの怪演
映画の直接の出来事に触れるのは避けたいが、とりあえずこれだけは言いたい。マカヴォイの演技が更に進化してる!
『スプリット』ではあの演技に圧倒されたが、今作はそれに加え観客の感情を揺さぶる演技へとパワーアップしている。
圧倒的安心感で支柱のパトリシアやどこか憎めないヘドウィグ、デニスはマジでかっこいい兄貴分で、それぞれの人格が主人やみんなのことを思っている描写は非常に感動的。
ビーストも喋ってて、みんながケヴィンを守ろうとしてたんだなとマカヴォイ一人の演技に心を鷲づかみにされる。

ちなみにパワーアップといえば、アーニャ・テイラー・ジョイの美しさも格段に上がってた。『ウィッチ』を見て彼女しかいないと出演を依頼したらしいけど、本当に綺麗な女優さんになられた。

 

6.安定のシャマラン節
一方でこの種の演技は演技力だけでない演出も重要で、そこはもう好みの分かれるシャマラン節。
撮るわ撮るわ色んな角度から色んなポーズで飽きさせない。自分は好きなので最高すぎた。あれは人格毎の共通項を見つけたくなる。
特に好きなのが人格の入れ替わりを見てる人達の表情で、「ええ…」って軽くひいてるのをじーっと撮ってるのがシャマランらしくて好きすぎた。
アクションにしろ多重人格マカヴォイやビーストの撮り方にしろ、綿密に考えられたように見える演出は安定のシャマランで好きな人には楽しめる。嫌いな人はひたすら見辛いらしい。

 

7.総評と次回作への期待
三部作に優劣をつけるのは野暮だけど、個人的にはやっぱり一作目の衝撃度が強すぎて圧倒的。ただあの作品から全てが始まったわけで、この作品を見ることで一作目がいかに驚きの内容であったかを改めて実感できた。
『スプリット』や『ミスターガラス』を機に『アンブレイカブル』が早すぎたヒーロー映画として評価を上げているのが本当に嬉しい。

現時点で続編の予定はなく、ユニバース等に縛られない新しいスリラーを作り続けたいと監督自身が語っていたので、この作品を経た次回作が本当に楽しみ。
『ミスターガラス』を契機に今までとは違うシャマランのスリラー映画が見れるのではないかと期待している。
それが面白いのか面白くないのかは全く分からない。ただ今回は本当に綺麗すぎたから、次は荒れてもいいよねと思える不思議さがシャマランにはある。
それが面白いのかは分からないが、好きな作品である期待値は確実にあがった!


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