『M』:フリッツ・ラング監督が生み出したサイコスリラーの元祖。

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 1920年代、ドイツを震撼させた連続殺人鬼“デュッセルドルフの吸血鬼”ことペーター・キュルテンに材を採ったフリッツ・ラング初のトーキー作品で、光と影を効果的に使い、犯人の恐怖感や民衆の狂気を巧みに描き出している秀作。幼い少女が次々と惨殺される事件が発生。警察当局の懸命な捜査にも関わらず犯人の見当は全くつかず、やがて暗黒街にまで捜査の輪は広げられる。これを機に暗黒街の面々は独自で犯人探しを開始、浮浪者や娼婦まで動員し憎き少女殺しを追い求める。やがて盲目の老人の証言が有力な手掛かりとなっていくが……。

1930年代のベルリンを舞台に起こる猟奇殺人事件。子供ばかりを狙う犯人とそれを追う警察やギャング、市民を描いたサイコスリラー。
監督はフリッツ・ラング。この時代、心理学の研究においてドイツは最先端を走っていたわけで、この人は群衆や集団を描いた社会心理を実験的に用いた映画が本当に巧い。風船や口笛や影といったモチーフにもゾッとする。

今作も犯人捜しのミステリーではなく、猟奇殺人により街中が疑心暗鬼になる様子が描かれる。老人が子供に道を教えただけで人が集まり、袋たたきにされそうになるほどにお互いを監視し合う街。そんな市民達の行き過ぎた行動だけでなく、警察が歩き回る状態を良しとしないギャング達までもが犯人を捜し始める。
挙げ句には本人達が私刑をあたえようとするまでに至り、そのやり取りは今でも通じるものがある。
自分はやりたくてやったわけじゃない、強迫観念によってやらされているんだと主張する犯人。彼に必要なのは刑罰ではなく医者だと主張する弁護士。それに対する子供を殺された母親達の言葉や憎しみ。司法の元での裁判ではないからこそ、異様な雰囲気と熱気に包まれたラストに圧倒され頭から離れなくなる。

 

フリッツ・ラング・コレクション M [DVD]

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