2019-11-01から1ヶ月間の記事一覧

『沈黙』:スコセッシ監督が30年近い年月を費やした悲願の作品

17世紀、江戸初期。幕府による激しいキリシタン弾圧下の長崎。日本で捕えられ棄教したとされる高名な宣教師フェレイラを追い、弟子のロドリゴとガルペは日本人キチジローの手引きでマカオから長崎へと潜入する。日本にたどりついた彼らは想像を絶する光景に…

『アイリッシュマン』:マフィア映画へのレクイエム

全米トラック運転組合のリーダー:ジミー・ホッファの失踪、殺人に関与した容疑をかけられた実在の凄腕ヒットマン:フランク“The Irishman”・シーランの半生を描いた物語。全米トラック運転手組合「チームスター」のリーダー、ジミー・ホッファの不審な失踪と…

『まぼろしの市街戦』:現実を生きる狂気と妄想を生きる狂気

第一次大戦末期、敗走中のドイツ軍は占拠したフランスの小さな街に大型時限爆弾を仕掛けて撤退。イギリス軍の通信兵は爆弾解除を命じられ街に潜入するも、住民が逃げ去った跡には精神科病院から解放された患者とサーカスの動物たちが解放の喜びに浸り、ユー…

『テルマ&ルイーズ』:女二人のジェンダー解放ムービー

専業主婦のテルマとウェイトレスのルイーズは親友同士。ドライブの途中、酔って襲いかかってきた男を射殺してしまい、指名手配を受けたふたりは荒野をメキシコへと向かうが―。アメリカン・ニューシネマを思わせる展開、今だ世にはびこっている男性優位主義に…

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』:被害者への敬意ある映画表現

リック・ダルトンは人気のピークを過ぎたTV俳優。映画スター転身の道を目指し焦る日々が続いていた。そんなリックを支えるクリフ・ブースは彼に雇われた付き人でスタントマン、そして親友でもある。目まぐるしく変化するエンタテインメント業界で生き抜くこ…

『凪待ち』:タイトルに込められた復興への想い

毎日をふらふらと無為に過ごしていた郁男は、恋人の亜弓とその娘・美波と共に彼女の故郷、石巻で再出発しようとする。少しずつ平穏を取り戻しつつあるかのように見えた暮らしだったが、小さな綻びが積み重なり、やがて取り返しのつかないことが起きてしまう―…

『永遠の門 ゴッホの見た未来』:劇場で映し出されるゴッホが見た世界

幼いころから精神に病を抱え、まともな人間関係が築けず、常に孤独だったフィンセント・ファン・ゴッホ。才能を認め合ったゴーギャンとの共同生活も、ゴッホの衝撃的な事件で幕を閉じることに。あまりに偉大な名画を残した天才は、その人生に何をみていたの…

『マローボーン家の掟』:重層的に仕掛けられたトリックホラー

海沿いの森の中にひっそりとたたずむ大きな屋敷。そこに暮らすマロ―ボーン家の4人兄妹は、不思議な"5つの掟"に従いながら、世間の目を逃れるように生きていた。忌まわしい過去を振り切り、この屋敷で再出発を図る彼らだったが、心優しい母親が病死し、凶悪…

『天気の子』:誰かの祈りで空が晴れる世界

高1の夏。離島から家出し、東京にやってきた帆高。しかし生活はすぐに困窮し、孤独な日々の果てにようやく見つけた仕事は、怪しげなオカルト雑誌のライター業だった。彼のこれからを示唆するかのように、連日降り続ける雨。そんな中、雑踏ひしめく都会の片…

『よこがお』:タイトルに隠された映像の三人称性

訪問看護師の市子は、その献身的な仕事ぶりで周囲から厚く信頼されていた。なかでも訪問先の大石家の長女・基子には、介護福祉士になるための勉強を見てやっていた。基子が市子に対して、密かに憧れ以上の感情を抱き始めていたとは思いもせず――。ある日、基…

『僕のワンダフル・ジャーニー』:ペットロスで苦しむ人達へ送られた物語

50年で3回も生まれ変わり、最愛の飼い主イーサンとの再会を果たした犬のベイリー。続編となる今作でもその “犬生”が終わりを迎え、再びイーサンに別れを告げようとしたベイリーに、「孫娘のCJを守ってほしい」という新たな<使命>が与えられる。イーサンや妻…

『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり』:ジュブナイルから中年の危機への物語

大人達が誰も助けてくれない架空の田舎町デリー。前作はそんな町で子供たちが協力して自身の恐怖と対峙し、「IT」を打ち払うことに成功した。それから27年後の今作は、散り散りになった彼彼女たちが再び町へ呼び戻される。 物語の終幕からX年後という語りが…

『ロケットマン』:エルトン本人が製作に関わり実績よりも過去や依存症に焦点を当てた最高に格好いい映画

自助グループでの告白から始まるエルトン・ジョンの半生。ミュージカルは基本的に個人の心象風景的な側面があると思ってたんだけど、ここで挟まれるミュージカルは少し違う。孤独や依存症を抱える本人が実際に見ていた幻覚とも思えるパートもあって、エルト…

『プライベート・ウォー』:伝説の戦場記者メリー・コルヴィン

戦場記者メリー・コルヴィン。伝説として神格化された彼女の姿を、PTSDや依存症を抱える一人の人間として描く。彼女が戦場へ向かうのは、使命感か強迫観念によるものか。これを見ても完全には分からないし、彼女自身も分からなかったんだと思う。一つの行動…