『M』:フリッツ・ラング監督が生み出したサイコスリラーの元祖。

1920年代、ドイツを震撼させた連続殺人鬼“デュッセルドルフの吸血鬼”ことペーター・キュルテンに材を採ったフリッツ・ラング初のトーキー作品で、光と影を効果的に使い、犯人の恐怖感や民衆の狂気を巧みに描き出している秀作。幼い少女が次々と惨殺される事…

『ドクター・スリープ』:キューブリック版『シャイニング』をキング映画として蘇らせる

ダニーは、40年前の雪山のホテルの惨劇で、狂った父親に殺されかけたトラウマを抱えている。大人になった今も人を避けるかのように孤独に暮らす彼の周りで児童ばかりを狙った不可解な連続殺人事件が起きる。ある日、彼の前に謎の少女が現れる。その少女は特…

『沈黙』:スコセッシ監督が30年近い年月を費やした悲願の作品

17世紀、江戸初期。幕府による激しいキリシタン弾圧下の長崎。日本で捕えられ棄教したとされる高名な宣教師フェレイラを追い、弟子のロドリゴとガルペは日本人キチジローの手引きでマカオから長崎へと潜入する。日本にたどりついた彼らは想像を絶する光景に…

『アイリッシュマン』:マフィア映画へのレクイエム

全米トラック運転組合のリーダー:ジミー・ホッファの失踪、殺人に関与した容疑をかけられた実在の凄腕ヒットマン:フランク“The Irishman”・シーランの半生を描いた物語。全米トラック運転手組合「チームスター」のリーダー、ジミー・ホッファの不審な失踪と…

『まぼろしの市街戦』:現実を生きる狂気と妄想を生きる狂気

第一次大戦末期、敗走中のドイツ軍は占拠したフランスの小さな街に大型時限爆弾を仕掛けて撤退。イギリス軍の通信兵は爆弾解除を命じられ街に潜入するも、住民が逃げ去った跡には精神科病院から解放された患者とサーカスの動物たちが解放の喜びに浸り、ユー…

『テルマ&ルイーズ』:女二人のジェンダー解放ムービー

専業主婦のテルマとウェイトレスのルイーズは親友同士。ドライブの途中、酔って襲いかかってきた男を射殺してしまい、指名手配を受けたふたりは荒野をメキシコへと向かうが―。アメリカン・ニューシネマを思わせる展開、今だ世にはびこっている男性優位主義に…

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』:被害者への敬意ある映画表現

リック・ダルトンは人気のピークを過ぎたTV俳優。映画スター転身の道を目指し焦る日々が続いていた。そんなリックを支えるクリフ・ブースは彼に雇われた付き人でスタントマン、そして親友でもある。目まぐるしく変化するエンタテインメント業界で生き抜くこ…

『凪待ち』:タイトルに込められた復興への想い

毎日をふらふらと無為に過ごしていた郁男は、恋人の亜弓とその娘・美波と共に彼女の故郷、石巻で再出発しようとする。少しずつ平穏を取り戻しつつあるかのように見えた暮らしだったが、小さな綻びが積み重なり、やがて取り返しのつかないことが起きてしまう―…

『永遠の門 ゴッホの見た未来』:劇場で映し出されるゴッホが見た世界

幼いころから精神に病を抱え、まともな人間関係が築けず、常に孤独だったフィンセント・ファン・ゴッホ。才能を認め合ったゴーギャンとの共同生活も、ゴッホの衝撃的な事件で幕を閉じることに。あまりに偉大な名画を残した天才は、その人生に何をみていたの…

『マローボーン家の掟』:重層的に仕掛けられたトリックホラー

海沿いの森の中にひっそりとたたずむ大きな屋敷。そこに暮らすマロ―ボーン家の4人兄妹は、不思議な"5つの掟"に従いながら、世間の目を逃れるように生きていた。忌まわしい過去を振り切り、この屋敷で再出発を図る彼らだったが、心優しい母親が病死し、凶悪…

『天気の子』:誰かの祈りで空が晴れる世界

高1の夏。離島から家出し、東京にやってきた帆高。しかし生活はすぐに困窮し、孤独な日々の果てにようやく見つけた仕事は、怪しげなオカルト雑誌のライター業だった。彼のこれからを示唆するかのように、連日降り続ける雨。そんな中、雑踏ひしめく都会の片…

『よこがお』:タイトルに隠された映像の三人称性

訪問看護師の市子は、その献身的な仕事ぶりで周囲から厚く信頼されていた。なかでも訪問先の大石家の長女・基子には、介護福祉士になるための勉強を見てやっていた。基子が市子に対して、密かに憧れ以上の感情を抱き始めていたとは思いもせず――。ある日、基…

『僕のワンダフル・ジャーニー』:ペットロスで苦しむ人達へ送られた物語

50年で3回も生まれ変わり、最愛の飼い主イーサンとの再会を果たした犬のベイリー。続編となる今作でもその “犬生”が終わりを迎え、再びイーサンに別れを告げようとしたベイリーに、「孫娘のCJを守ってほしい」という新たな<使命>が与えられる。イーサンや妻…

『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり』:ジュブナイルから中年の危機への物語

大人達が誰も助けてくれない架空の田舎町デリー。前作はそんな町で子供たちが協力して自身の恐怖と対峙し、「IT」を打ち払うことに成功した。それから27年後の今作は、散り散りになった彼彼女たちが再び町へ呼び戻される。 物語の終幕からX年後という語りが…

『ロケットマン』:エルトン本人が製作に関わり実績よりも過去や依存症に焦点を当てた最高に格好いい映画

自助グループでの告白から始まるエルトン・ジョンの半生。ミュージカルは基本的に個人の心象風景的な側面があると思ってたんだけど、ここで挟まれるミュージカルは少し違う。孤独や依存症を抱える本人が実際に見ていた幻覚とも思えるパートもあって、エルト…

『プライベート・ウォー』:伝説の戦場記者メリー・コルヴィン

戦場記者メリー・コルヴィン。伝説として神格化された彼女の姿を、PTSDや依存症を抱える一人の人間として描く。彼女が戦場へ向かうのは、使命感か強迫観念によるものか。これを見ても完全には分からないし、彼女自身も分からなかったんだと思う。一つの行動…

『ドッグマン』:主従関係というパワーゲーム

イタリアのさびれた海辺の町。娘と犬をこよなく愛する温厚で小心者のマルチェロは、質素ながらも「ドッグマン」という犬のトリミングサロンを経営し、気のおけない仲間との食事やサッカーを楽しむ日々を送っている。だが一方で、その穏やかな生活をおびやか…

『ジェミニマン』:限られた劇場でしか鑑賞出来ない別次元の映像体験(日本での上映は三館のみ)

ウィル・スミス演じる伝説的暗殺者ヘンリーは、政府に依頼されたミッションを遂行中、何者かに襲撃される。自分の動きを全て把握し、神出鬼没で絶対に殺せないと評される最強のターゲットをヘンリーが追い詰めたとき、襲撃者の正体が秘密裏に作られた“若い自…

『空の青さを知る人よ』

山に囲まれた町に住む、17歳の高校二年生・相生あおい。将来の進路を決める大事な時期なのに、受験勉強もせず、暇さえあれば大好きなベースを弾いて音楽漬けの毎日。そんなあおいが心配でしょうがない姉・あかね。二人は、13年前に事故で両親を失った。当時…

『ボーダー 二つの世界』

スウェーデンの税関に勤めるティーナは、違法な物を持ち込む人間を嗅ぎ分ける能力を持っていたが、生まれつきの醜い容姿に悩まされ、孤独な人生を送っていた。 ある日、彼女は勤務中に怪しい旅行者ヴォーレと出会うが、特に証拠が出ず入国審査をパスする。ヴ…

『ジョーカー』

アーサーへの同情や共感を誘いながら、残り続ける解釈の曖昧さ。全てを見ればジョーカーを完全に理解できたと思う人間も、真似しようとする人間もいないはず。そんな観客への絶対的な信頼から成りたってる点に狂気すら感じる。発言にしろ創作にしろ誤解を招…

ニューウェーブSFの再来:『アド・アストラ』

人はなぜ宇宙を目指すのか。使命や好奇心だけでなく、地球に馴染めない人間の逃避先となった宇宙。様々な映画で断片的に語られてきたこの問題を、自己と向き合うことで改めて問い直す。過去の名作や読者と対峙し総括する。清算する。結論は別として、SF好き…

映画『ミスター・ガラス』/シャマラン作品の集大成。

待ちに待った今年一番の期待作。試写は無理だったけど、初日の初回上映で見ることが出来た!見終わって感じたのはその熱量。失礼な言い方かもしれないけど、今までのシャマラン作品にはない程の熱意が注ぎ込まれてる。いやもう真面目過ぎるほどに。18年間考…

関西にポツンと佇む風車村 〈滋賀県:しんあさひ風車村〉

最寄駅は滋賀県「新旭駅」。 旅路の風景は一面田んぼ田んぼの田園調で、秋などは非常に美しいのですが、駅からの距離が何ぶん遠い。歩いて向かえば着いた頃にはヘトヘト、カラカラ。直通バスは廃止されてしまったものの、予約乗合タクシーがありますので旅路…

紛争/革命/テロリスト関連のオススメ映画12選

現代の世界情勢を特徴づけるものとして、国土領域内で多発する人種・民族・宗教間での紛争問題があげられる。「低強度紛争」や「難治性紛争」と名付けられる近年の内線型紛争。 しかし、その実態を掴むことは非常に難しい。 ここではそうした人種/民族/宗教/…

戦争/レジスタンス関連でのオススメ映画13選

戦争と映画。両者は互いに密接な関係をもって存在し続けてきた。例えば、戦時において映画はプロパガンダの手法として用いられたり、戦争で開発された技術がそのまま映画技術の高度化に貢献するなどしてお互いを補完しあった。その一方で、戦争が終われば映…

真実委員会/真実和解委員会(1)

語りえぬ真実 作者: プリシラ・B・ヘイナー,阿部利洋 出版社/メーカー: 平凡社 発売日: 2006/07/25 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (4件) を見る なぜ、この活動にこんなにも興味を惹かれるのか。 21世紀を前後して、大規模な暴力を経験した社会にお…

SFがさらに好きになる映画15選

「SF映画」このジャンルほど分類が難しいものはない。SFジャンルと決めかかって探していたらサスペンスやファンタジーやアクションの所にありました。なんてことはざらにある。そして、このジャンルほど評価が別れやすいものもない。面白かったと思った作品…

男の復讐は十人十色。これぞ復讐劇!!なおすすめ映画10選

「復讐からは何も生まれない」この言葉は事実かもしれないが、すべてを奪われたひとりの男が、誰もが恐れてしまうような巨大な悪に立ち向かっていく姿はなんとも魅力的に映ってしまう。すべてを失い、守るものが何もなくなったからこそ捨て身になれる時があ…

これだけは見ておきたい名作映画&皆で見たい良作10選+海外ドラマ4選

大型連休にはお家でゴロゴロ、みんなでワイワイ映画を見たいなー。そんなことを思いながら、ここではそんな連休中に見て欲しい私的名作&良作10選をご紹介。ついでに、長期の休みに是非見てほしいオススメ海外ドラマも。休み明けの日々のためにも素晴らしい映…