『マローボーン家の掟』:重層的に仕掛けられたトリックホラー

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海沿いの森の中にひっそりとたたずむ大きな屋敷。そこに暮らすマロ―ボーン家の4人兄妹は、不思議な"5つの掟"に従いながら、世間の目を逃れるように生きていた。忌まわしい過去を振り切り、この屋敷で再出発を図る彼らだったが、心優しい母親が病死し、凶悪殺人鬼である父親を殺害したことをきっかけに、4人の希望に満ちた日々はもろく崩れ出す。屋根裏部屋から響いてくる不気味な物音、鏡の中にうごめく怪しい影。いったいこの屋敷には、いかなる秘密が隠されているのか。やがて平穏を保つための"掟"が次々と破られ、心身共に追いつめられた長男ジャックが、最愛の妹と弟たちを守るために下した決断とは…

二回目の鑑賞。(以下はネタバレを含みます)
公開当時からネタバレ禁止と言われ続けていたため、序盤の会話から幽霊なのかなと疑問を抱いた一回目の鑑賞。
あの兄弟の誰かが見えていない、既に亡くなったいるのは前半で気づけるんだけど、この映画が巧いのはそれを匂わせた上で仕掛けてくる重層的は構造。誰が存在してないのか、いつ事件は起こったのか、何があったのか。ここら辺を伏線や演出で示しながら、ラストは時系列の同時進行で暴いてしまう。サンチェス監督はほんと天才的な脚本家だと二回目でも実感できる。
しかも幽霊というより多重人格とも取れるわけで見事にしてやられた。ミステリーはあらゆる伏線や仕掛け、監督の意図を全て見破らなきゃ負けだと思ってるので完全敗北です。

ハートフルな話になったのも個人的には大好き。ある種の空想や物語の力で生きる希望を繫いでいくのは、最近の映画に多いけどやっぱり最高だよ。
主人公とヒロインの関係も今年のベストカップルに選びたいくらい良かった。事件解決で二人がキスをするのかなと見せかけてハグするんですよね。あそこでキスだけはないわけで、ハグの理由もあって最高すぎた。兄弟を消さないために薬を隠すとか強すぎるよ『スプリット』に続いてアニャがヒロインの時点で主人公の多重人格を疑うほどにはベストなキャスティングにもなってた。
オリオル・パウロ監督や今作のサンチェス監督にスペインのミステリー系映画のクオリティが跳ね上がっていく。怖い系のホラーではないけど大傑作です。