支援とは何か(1)-「支援」の操作的定義づけ-
支援とは英語のサポート(support)に対応している。援助(aid)、後援(backing)、手助け(help)、補助(assist)など、支援に関連する言葉は様々な場面で用いられるがこれらは日常的にあまり区分なく使われている。『類似語例解辞典』によれば、同じ意味としてよく使われる「支援」と「援助」の違いは、
・援助が助けるためにモノや金を与えること
・支援は間接的なやり方あるいは実際行動で助けること
であり、共通する部分として「困難な状況にある人を助けること」を挙げる。つまり、援助・支援ともに「誰かを助けようとする意図」は共通しており、支援とは助けることに関わる一般的な用語といえる。
・支援基礎論研究部会による「支援」の定義
支援の一般的な意味内容には上のものが挙げられるが、支援を定義する際には個々の論者から、支援現象に生じる問題を解決できるような操作的な支援定義が模索・採用されてきたと言える。つまり、支援とは何かということを考える際には支援の問題点とは何かという点を考えた上で、それを補うような規範的な支援の定義が求められてきたのである。
支援の定義付けは支援基礎論研究会によって示され、これによって支援そのものが研究対象になり得ることを示された。「支援基礎論研究部会」は1993年ごろより東京工業大学や東京理科大学、産能大学などが中心となって社会的に注目する支援活動を幅広く見据えた上で支援概念そのものを研究対象とし、参加者それぞれの専門性から支援そのものの本質を浮き彫りにしようとした。研究部会の定義によれば、
「支援とは、他者の意図を持った行為に対する働きかけであり、その意図を理解し、その行為の質の改善、維持あるいは行為の達成を目指すものである。この時の働きかけを行うものを支援者と呼び、支援を受ける行為の主体を被支援者と呼ぶ
この定義の特徴としては、
・支援は支援者と被支援者によって構成される
・支援における他者性を示した
・支援において相手の意図が自分の意図より優先される
・支援とは相手の行為の質を高めようとする「働きかけ」である
という四点が挙げられる。つまり、ここで示されている支援定義とは、「他者である支援者が被支援者の意図を汲み取った上で、その行為の質を高めることを目指す働きかけの総称」であると言える。
・今田による「支援」の定義
今田(2005)は、上述の研究部会の定義にエンパワーメントの概念を結びつけることで従来の支援定義を刷新した。今田によれば、
支援とは、何らかの意図を持った他者の行為に対する働きかけであり、その意図を理解しつつ、行為の質を維持・改善する一連のアクションのことをいい、最終的に他者のエンパワーメントをはかることである
今田の定義は、支援における他者への「配慮(care)」と「エンパワーメント(empowerment)」を重要視する。 また、支援の条件として
・被支援者の意図の尊重
・支援は押しつけであってはならない
・ 自助努力を損なうような支援であってはならない
という三つの点を挙げる。
支援とは被支援者のニーズに応じて適切なタイミングとコストのもとでなされるべきものである。彼が特に重視するのは「エンパワーメント」であり、この概念を付け加えたのは、研究会による支援定義が支援を行うことによる「支援者への依存(寄生)」という問題をクリアできていなかったためと言える。
支援を行うことで、被支援者が支援者に依存してしまい、結果として被支援者本人の自助努力や能力を損なってしまうようでは、それは適切な支援とは言えない。ここで言うエンパワーメントとは、行為の質の改善を専門家に委ねるのではなく、被支援者自身が知識や技術を獲得することで自分で問題を解決するん能力を身に付けることを意味する。つまり、今田は、被支援者の支援者への依存(寄生)という問題を解決するために、被支援者自身が自己の力を高められるような支援の方向性を支援定義に組み込んだのである。
・舘岡による「支援」の定義
舘岡(2005)は、上述の二つの定義と自分の定義をまとめる形で支援の定義と条件を以下のようにまとめている。
・支援の構成要素 ・他者への働きかけ(支援者と被支援者) ・他者の意図の理解(被支援者の目的) ・行為の質の維持と改善 ・エンパワーメント ・支援者の自由意志 |
・支援に要請される条件 ・自分の意図を前面に出さない ・相手への押しつけにならない ・況に応じて自分が変わる(自省的自己組織化) ・相手への自助努力を損なわない ・参入参出の自由を保証する |
彼は、支援基礎論研究部会と今田の定義に加えて「支援者の自由意思」を重要視する。今田の支援定義では、管理された支援とそうでない支援の区別がついていない。つまり、管理された支援は支援ではないという立場から、支援は支援者の自由意思で行われると定義する。
・狩俣による「支援」の定義
一方で、狩俣(2000)はケアの思想や援助研究の流れを踏みながら支援を次のように定義する。
支援は被支援者が何らかのニーズあるいは改善される必要のある目標を持っていることを前提に、支援者は被支援者のニーズや目標あるいは意図を理解し、それに基づいて、支援者はそのニーズの充足や目標の達成に必要な行為の提供をすることが必要とされる。支援は、個々人の主体性、自発性、独自性に基づいて、お互いに最も必要としているところを助け合い、足りない点を補い、相互に成長発展する過程である。
彼は、支援を他者の目標やニーズを満たすことを支える過程であるとし、さらに相互に支え合うことで支援者も共に成長していく過程であるとする。支援者は支援を通じて自己の意味を発見し、意味実現するという支援者も共に成長するような支援定義を支援とする。
従来の支援定義は被支援者の側ばかりに目がいき、支援者側には非常に厳しい支援定義が与えられてきた。しかし、支援とは支援を行う支援者側にも非常な負担がかかる。これは「燃え尽き症候群(バーンアウト)」が現代社会で大きな問題となっていることからも明らかだろう。狩俣の支援定義は、こうした問題点の解決までを視野に含めた支援者・被支援者双方の問題にとっての定義と言える。
・まとめメモ
先に述べてきた「支援」の定義に、いくつかの概念を付け加えてまとめると次のようになる。
・支援の構成要素 理念:ケアリング(相互作用的・並列的的関係、他者への理解と共感、寄り添いの姿勢) 構成員:ニーズを持った当事者・自由意思をもった支援者・無関心な非支援者(傍観者) 目的:行為の質の維持と改善(権利・能力・関係性の回復=機会の提供) 方法:エンパワーメント/エンタイトルメント・アプローチ 評価:スパイラルアップ(フィードバック・システム) 結果:支援者と被支援者双方の満足・成長 |
・支援の条件 ・支援とは必要(ニード・ニーズ)から生じる ・社会の価値観よりも当事者の価値観を尊重する ・人間の状態(being)以上に何かをすること(doing)の方を重視する(「社会性」を重視する) ・支援する権利、支援される権利、支援することを強制されない権利、支援されることを強制されない権利を保証する |
まず第一に、支援を「〜であるべき」「〜であるべきでない」という規範的な要素を含める以上、支援の定義は支援を行う者の負担となってはいけない。支援者に一方的に負荷を負わせるような支援定義では支援は成り立たない。上述の定義が支援者の自由意思を無視し、理想的な支援を求めるようなものであってはならない。よって、支援者には「支援することを強制されない権利」が保証される必要があるのである。
支援とは被支援者のニーズに基づいて行われるべきだが、それは支援者をニーズの充足のために道具的に扱う事ではない。支援者は支援を強制されることなく、支援においては被支援者だけでなく支援者自身が満足や充足感を得ることが望ましい。支援を行うということは、支援者にとって非常に負担のかかる行為である。そのような行為をなぜ支援者は行おうとするのか。それは支援者の側にもそれなりのニーズが存在するからだと考えられる。人間には誰かの役に立つことで、自分自身の存在理由を見いだせるということが多々ある。人は往々にして他人のためと言いながらも、実は自分の存在を確認するために行動していることがあるのである。
そのように考えると、支援とは単なる無償の善意と考えるのではなく、お互いのニーズを満たし、お互いが満足するためのものだとも捉えられる。バーンアウトや支援者による虐待、ケアペナルティ(低賃金など)といった現象を防ぐためにも、支援を考える際には支援者への配慮も必要となってくるのである。そのような前提の下で、支援とは何よりもまず「必要(ニード・ニーズ)」から生じなければならない。
当事者主権を訴える中西は次のように言う。
ニーズを持ったとき、人は誰でも当事者になる。ニーズを満たすのがサービスなら、当事者とはサービスのエンドユーザーのことである。だからニーズに応じて、人は誰でも当事者になる可能性を持っている。
つまり、ニーズを出発点として考えることで、被支援者は初めて支援者による支援を一方的に被る「被支援者」の立ち位置から、支援者と対等の「当事者」としての立ち場へと駆け上がる。ここで初めて、被支援者は声を持ち権利を有する当事者となるのである。
支援とはまず、このようなニーズをもった当事者に対して行うものとする。このように想定することで、
・自分の意図を前面に押し出さない
・相手への押しつけにならない
・相手の自助努力を損なわない
という点をクリアすることができる。
そして、支援の背景には「ケア」の理念が存在する。ケアという発想は、支援現象における「支援する-支援される」という一方向的な関係に対して、双方向的な関係、相互作用行為を志向するものだと言える。ケア的な支援とは、被支援者と同時に支援者自身も他者の悩みや苦しみを受容することで相互に成長発展し、自己実現を志向する支援形態だといえる。
また、エンパワーメントやエンタイトルメント概念に根ざして、支援を受ける当事者が「何をするか」「何がしたいか」を重視することでその能動性を確保する必要がある。つまり、根源的なニーズを満たせる手段として権利・能力・関係性などへのアクセスを保証することが目指されるのである。支援とは、逆説的ではあるが支援を受ける当事者自身が「力(power)」を得ようとする過程である。当事者が支援過程に組み込まれることで、当事者は本当のエンパワーメントを得ることができるのである。
さらに、当事者の多様で流動的なニーズを把握するために「スパイラルアップ」を行う必要がある。スパイラルアップとは、PDCAサイクル(Plan→Do→Check→Act)の最後の「Act(処置)」で見つかった改善点を、「Plan(計画)」に反映させることでプロジェクトを継続的に向上させようとする品質管理マネジメントなどの分野で用いられ始めた手法であるが、これは支援現象においても適用できる。支援に生じる最大の問題は、ニーズを的確に把握できていないことによって生じる。スパイラルアップというフィードバック機能を考えることで、当事者のニーズの変化や多様化に対しても幅広く最大限のニーズを導き出せる余地が生じるのである。
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