デザインによる支援、支援工学

道具の使用は、人間が他のどのような動物よりも秀でている能力だといえる。

脳の進化は人間に知能の発達を促し、知能の発達は周りに存在する「モノ」を応用し、自分たちの生活の助けになるように道具として活用することを可能にした。道具の発展が人類に進化と発展の歴史をもたらしたことは、原始の「火」や住居・衣類の活用、前近代の科学技術の発展、近代の産業革命、現代の情報機器の発展の歴史を見れば明らかだろう。道具(ツール)の発明とは人類の最も基本的な支援形態と言えるのである。

現代ほど支援活動が活発に行われている時代がないのと同様に、現代ほど支援ツールが充実している時代もない。人間の移動を便利にしたり、認知能力を補助するための科学技術の高度化がとどまることを知らないように、我々は日常的に様々な「モノ」に支援されているのである。身近なものでも、道路・車・エスカレーターは我々の移動を助け、ノートや鉛筆は人間の記憶力を補うものとして人間の能力の限界を支援している。

そして、情報技術の革新的発達に伴って現れてきた支援、いわば「コンピュータを媒介とした支援」は現在最も注目されている研究分野であるといってもいい。コンピュータを媒介とした意思決定支援システム、学習支援システム、診断支援システム、設計支援システム、翻訳支援システムといった言葉は、それぞれの分野で一般化しこれらの情報処理支援システムは多くの業務をサポートしている。

さらに、近年最も注目が集まっているのが「デザインからの支援」という視点だろう。現在、バリアフリーアクセシビリティノーマライゼーションなどの流れを受けて、国籍や文化、言語を超え、年代・障碍・個々の能力レベルの程度を問わずに誰もが利用することができるような製品・施設・情報のデザイン設計の意味を持つユニバーサルデザインに関しての議論や研究が盛んに行われている。

これはまた、従来の健常者を中心に組み立てられていた都市や商品から、全ての人が安心して利用できる製品や街づくりが進められているといってもいい。このように、支援工学を代表とするモノによる支援。つまりは人間の認知能力を補助する技術、生活支援を目的とした工学技術開発、バリアフリーの建築やユニバーサルデザインなど、「支援」という言葉はこれまであまり意識することのなかった工学や建築の分野においても語られることとなった。

そして、こうした流れの中で設計者や技術者は支援を行うものとして、支援を受ける側のニーズや要望を把握した上で、ミスマッチや拒絶が起こらないような「モノ(道具)」を作る必要が生じているのである

 

・以下、支援のデザインが受け入れられない例(今田 2000,参考)

・技術が受容されない

いかに優れた支援技術が開発されたとしても、それがその対象である人や社会に受容されなければ意味がない。理論的にはどれだけ有益な利益が出ると考えられているシステムであっても、その実践者に受け入れられないケースが多々ある。これは例えば、高齢者や障碍者などの社会的視線に敏感な人々に対しての製品や建物は、その機能的な側面以上にユーザーの好みや趣向によって受け入れられるかどうかが決まってくる。つまり、ユーザビリティを尊重し、支援対象者のニーズを的確に把握した上での設計、「利用者参加型設計」や「利用者中心の設計」が目指される必要がある。

 

・対象外の人への障害となる

ある対象に対しての支援技術が、他の対象にとっての障害となることがある。これはバリアフリーデザインからユニバーサルーデザインへの流れを考えてみれば分かりやすい。バリアフリーとは、障害を持つ人が生活する上での障害(バリア)を取り除くことを意味する。この障害には物理・社会・制度・心理的なものがあるが、同じ種類の障害であっても個々人にとって障害の中身は異なっており、例えば肢体不自由者視覚障害者を対象にしたバリアフリーデザインがお互いにとって相容れない新たな障害を生むといった、新たな問題を生む。これはまた、健常者用と障害者用とに分けてデザインを行うことで生じる問題にも言えることである。

こうした問題に対応しようとしたのがユニバーサル・デザインの議論である。ユニバーサルデザインは、ユーザー特性多様性などに適合することによって利用できるユーザ範囲の拡大を目指すという設計の考え方(岡本")とも言える。つまり、特別な対象を前提にするのではなく、できるだけ多くの人たちに利用しやすい活動環境の設計を目指した概念である。

 

上述の対象間で生じる問題を解消しようとするには、個別ニーズを前提としたデザインから、幅広い種々のニーズを把握した上で、それらのニーズをできる限り最大限に設計プロセスに組み込んでいけるような全体的なデザインの視点が求められる。また、より多くのニーズを巻き込みながらのデザインの継続的改善を行うためのスパイラルアップ型の設計手法も求められる。

 

支援学―管理社会をこえて

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