健康な社会を目指して。

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity. The enjoyment of the highest attainable standard of health is one of the fundamental rights of every human being without distinction of race, religion, political belief, economic or social condition.

健康とは、身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態のことをいい、単に病気でないとか虚弱でないというだけのものではない。人種、宗教、政治的信念、経済・社会的地位によって差別されることなく、到達しうる最高水準の健康に恵まれることは、全ての人々にとっての基本的権利である。

WHO憲章前文に記されるこの一文は、人間が目指すべきあり方と人間が有する基本的権利を「健康」という言葉で見事に表現している。

well-beingという言葉が初めて用いられたことでも有名なWHOによる健康定義は、健康を全人的(ホリスティック)に解釈する。「健康=病気ではないこと・生命が維持されている状態」といった消極的な健康定義でなく「、身体的・精神的・社会的にバランスのとれた良好な状態」を健康とする積極的な定義づけが行われることによって、現代社会において健康とは、単なる医学的な問題から、人間が追求すべき一つの理念や権利としても認められているのである。

「全ての人に健康を」という理想を掲げ、「健康は基本的人権の一つである」という新しい概念を世の中に広めたWHOやユニセフの努力は、まさしく世界を新しい方向へ導いた。そして、医学モデルから生活モデルとして解釈され直した健康概念は、貧困国や紛争国の問題を健康という視点から捉えるのに有効なばかりでなく、日本をはじめとした先進国を捉える際にも有効である。

 

このような概念と照らし合わせると、どれだけ医療の技術が発展した世界であっても、私たちは健康であると言えるのか。私たちは健康であることを保障されているだろうか。という疑問は残り続ける。

自殺率、失業率の高まり

地域社会の衰退

家族関係の断絶と家庭内で生じる暴力

他者との関係性の希薄化

心の病の社会問題化

医療技術は確かに向上した。しかし、本質的な問題は個人の内に残されたままである。外見上は健康なように見えても、個人が抱くリアリティは正反対であることが多々ある。WHOが示した健康概念に照らし合わせた上で、私たちはどうすれば「健康な生活」を送れるのかという点をホリスティックに考えることが21世紀の課題となるだろう。